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福岡高等裁判所 昭和58年(ネ)422号 判決

控訴人

大分県信用組合

第四代理事長

児玉馨

被控訴人

近藤新

被控訴人

後藤哲郎

被控訴人

角久間礼文

被控訴人

高山久雄

被控訴人

小森鹿十郎

右四名訴訟代理人

近藤新

被控訴人

館重治

主文

原判決を取り消す。

本件訴えを却下する。

訴訟費用は第一、二審とも児玉馨の負担とする。

事実及び理由

一本件控訴の趣旨は「原判決を取り消す。被控訴人らは連帯して、控訴人に対し金二〇〇万円を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求めるというのであり、これに対する答弁は「本件控訴を棄却する。控訴費用は児玉馨の負担とする。」との判決を求めるというのである。

二本件訴訟の経過は次のとおりである。

1  本件訴えは、児玉馨が昭和五八年四月一二日原裁判所に対し、一部別紙のとおりの記載のある本件訴状を提出して提起され、同日、同庁同年(ワ)第二〇一号損害賠償請求事件として受け付けられた。

2  原審は、その口頭弁論期日を同年五月二七日午前一〇時と指定し、右訴状記載の被告ら全員に対し右訴状及び右口頭弁論期日呼出状等が送達された後に、原審A裁判官の関与のもとに、原告代表者と称する児玉馨及び被告兼その余の被告ら代理人近藤新が出頭して、右口頭弁論期日を開き、右の児玉馨に「原告は、児玉馨本人でなく大分県信用組合である。」と陳述させたのみで、右期日の弁論を続行し次回期日は追つて指定する旨宣言し、同期日を終了した。

3  原審は、その後右弁論続行のための次回期日の指定をしないまま同年六月一五日に至り、判決言渡期日を同月二四日午前一〇時と指定し、当事者に対し同期日の告知、呼出手続はなさず、右のA裁判官が「本件訴えは、大分県信用組合の代理権又は代表権のない児玉馨が同信用組合を代理又は代表して提起したもので不適法な訴えであり、右代理権又は代表権の欠缺は補正できないものと認められるから、民訴法二〇二条に従い口頭弁論を経ないで判決をもつて本件訴えを却下すべきである。」との理由で、その趣旨の原判決を右言渡期日に言い渡した。次いで、同月二五日児玉馨宛に同判決正本が送達された。

4  同年七月六日本件控訴が提起され、同年一一月二九日午後一時一〇分の当審の口頭弁論期日において、本件訴状、控訴状等の各陳述及び原審口頭弁論の結果陳述等がなされた後、口頭弁論の終結宣言がなされた。

三ところで、〈証拠〉によれば、児玉馨は昭和四一年五月二二日後も大分県信用組合の代表理事を退任していないものとし、本件原告である同信用組合を代理又は代表して本件訴えを提起したものであるところ、同信用組合の登記簿には、昭和三八年七月二七日中山兼雄、児玉馨、長尾隆代表理事就任、昭和四一年五月二二日代表理事児玉馨、館重治、長尾隆退任、同年六月四日長尾隆代表理事就任、同月一一日館重治代表理事就任、昭和四四年五月二二日代表理事長尾隆、同館重治退任、同月二七日長尾隆代表理事就任、昭和四七年五月二五日代表理事長尾隆重任、同年六月一〇日近藤金治代表理事就任等の記載及び(その後も代表理事を重任していた)長尾隆の昭和五四年一二月二九日死亡、同日近藤新、後藤哲郎の代表理事就任等の記載があり、昭和四一年五月二二日代表理事児玉馨の退任及び同年六月四日長尾隆の代表理事就任は適法になされたものであること、並びに、児玉馨は昭和四三年五月一九日組合員除名の議決により同信用組合の組合員としての資格を喪失したことが認められ、右認定事実によれば、児玉馨は、昭和四一年五月二二日大分県信用組合代表理事を退任し、現在同信用組合の代表理事の権利義務を有する余地はないものというべきであり、そのほか本件においては同人につき同信用組合の代表権又は代理権の存在すべきことの証明はない。

そして、右信用組合と前示のような関りを有するに過ぎない児玉馨により訴え提起された本件請求は、本件訴状の記載によれば、同信用組合の現代表理事等の地位にある被控訴人らに違法行為があつたとして、その損害賠償責任を追及するものであることが認められる。

してみれば、本件訴え提起には代理権又は代表権の欠缺があり、かつ、追認などによる右欠缺の補正もできないものと認められる。

四しかるところ、民訴法二〇二条は、不適法な訴えでその欠缺が補正できない場合に、例外的に口頭弁論を開かないで訴えを却下しうることを認めた規定であつて、いつたん口頭弁論を開いた場合には、原則に戻つて必要的口頭弁論の性格を有することとなると解するのが相当である(そうでなければ、判決の結果如何によつてその基礎たる口頭弁論の性格が必要的なものとなつたり、任意的なものとなるという不合理が生ずる)。そうすると、原審は、いつたん口頭弁論期日を開いて本件訴え提起の効力(すなわち、訴え提起の代理権又は代表権の存否)の調査のための審理を始めたものであるから、訴えの適否についても右口頭弁論に基づきその終結時の状態において判決する必要が存するにもかかわらず、前記のとおり、右期日に児玉馨に対し本件の原告が誰であるかを釈明させたのみで、右期日の弁論を次回に続行する旨宣言したまま、右口頭弁論終結の措置はとらず事実上これを打ち切り、しかも判決言渡期日の告知、呼出手続を欠いたまま、右訴え却下の原判決を言い渡したのである。

したがつて、原審には、実質的に口頭弁論による審理を経ず、かつ、その口頭弁論の終結宣言をなすことなく判決した訴訟手続違反が存するが、右訴訟手続違反は、本件訴えが原判決同様明らかに不適法と判断される以上、いまだそれを理由に原判決を取り消さなければならないような重大な瑕疵とまではいいがたい。

しかしながら、口頭弁論開始後であるのに判決言渡期日の告知、呼出手続を欠いたままなされた判決の言渡しは、法律に違背することが明らかであるから、民訴法三八七条により、原判決はその取消しを免れないものである。

五以上のとおりであるから、原判決を取り消したうえ、本件訴えを不適法として却下すべく、訴訟費用の負担について民訴法九六条、九九条、九八条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(谷水央 足立昭二 江口寛志)

訴状〈省略〉

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